社会保険労務士稲門会

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● 第7回・講演と懇親の夕べ(平野文彦・日本賃金学会会長・日本大学教授「企業における労務管理のパラダム変化」)
2007年12月1日(土)ホテル銀座ラフィナート


 2007年12月1日(土)午後3時より「ホテル銀座ラフィナート」にて、「第7回講演と懇親の夕べ」が開催されました。2001年7月に社会保険労務士稲門会が設立され、その年に第1回の「講演と懇親の夕べ」を実施してから今回で7回目の開催となりますが、この度は日本賃金学会会長の平野文彦先生(日本大学経済学部教授・稲門出身)を講師にお招きすることができ、経営労務のグローバルな動向という時宜を得た講演テーマでもあったことから、大勢の会員の皆様にご出席いただき、盛況のうちの開催となりました。

第1部・講演の部

 第1部・講演の部は、ホテル銀座ラフィナート「月光の間」にて、香川忠成幹事(埼玉会)の司会のもと、藤原久嗣会長(東京会)の開会の辞に続いて、講師である平野文彦先生に、「企業における労務管理のパラダム変化-ヨーロッパにおける変質から考える」というテーマで、1時間あまりご講演いただきました。

 プロジェクタを使った先生のご講演は、内容的にも、実際にご自身が先の欧州滞在などにおいて見聞きしたケースを織り込んだもので、たいへん具体的で分かりやすく、また、それらを通して今後の企業における労務管理のあり方の方向性を示したものであり、参加された会員の皆さんの今後の業務に資するところが大いにあったものと思われます。

平野文彦先生の講演内容 
企業における労務管理のパラダイム変化
   -ヨーロッパにおける変質から考える実際例

 平野文彦先生のプロフィール
  1969年早大第一商学部卒。1974年大学院修士課程
  修了。専門は経営学。横浜商科大学に25年間。助教
  授、教授、商学部長を経て、2003年4月より日本大
  学経済学部教授。この間、早稲田大学社会科学部にて
  非常勤講師として賃金論を担当。日本賃金学会会長。

1.はじめに
   スイス・ジュネーブを中心にヨーロッパに身を
おいての研究活動(環境問題と経営学)を通して
2.ヨーロッパにみる経営労務の風景
   1)日曜日はスーパーは営業しない
   2)スーパーのレジの長い列が消えた
   3)ローコスト・エアラインの活況
3.おわりに
  1)「労働条件」管理か「労働環境」管理か
  2)賃金条件を外し「人」の効率活用を追究
  3)労働の苦痛は取り除く
  4)「人」それぞれの個性と能力を発現させる
  5)ビジネスの基礎は人々の生活向上提案
  6)ビジネスの寿命を縮める人件費削減
  7)顧客満足(CS)と従業員満足(ES)と
    素材満足(MS)

第2部・懇親の夕べ

 第2部・懇親の夕べは、ホテル銀座ラフィナート「日光の間」に会場を移し、第1部に引き続き香川忠成幹事の司会のもと、住吉忠男副会長(東京会)の開会の挨拶、中島浩喜副会長(愛知会)の乾杯の音頭で歓談に移り、途中、新入会員・初参加会員の方々にも自己紹介やご挨拶いただき、会員同士の懇親を大いに深めました。

 こうして会は終始なごやかな雰囲気の中で進行しましたが、その間に、蒲生秀晴副幹事長(東京会)からのホームカミングデーにおける「年金労務相談コーナー」の出店報告、研修委員長である二宮孝常任幹事(東京会)からの第3回・第4回「勉強会」実施報告など、当会の最近の活動報告、中島浩喜副会長からの愛知会の活動道報告、林智子副幹事長(東京会)からの東京会の活動報告など各都県会の活動状況報告などが行われました。

 また、藤原久嗣会長から、2008年4月から稲士会の四士業合同で母校に寄付講座を開設することが先の稲士会総会で確認され、稲士会会長に藤原会長が就任したことの報告もされました。

 これらが終わって、会員諸氏お待ちかねのビンゴゲームが行われ、会は一気にその盛り上がりの度合いを高め、楽しい時は流れて感興醒めやらないうちに終了予定時刻となりました。

 そして最後に、蒲生副幹事長の指揮により全員で校歌を斉唱し、堀口利副会長(東京会)からの中締めと閉会の挨拶をもって、会は無事お開きとなりました。

平野先生のお話で 興味深かったこと 考えさせられたこと       ―  稲門社労士

 欧州滞在から帰朝されて間もない平野先生のお話は、海外の労務管理の変化の動向をとり上げていて、とりわけ、ヨーロッパにみる経営労務の“風景”というお話が、具体的事例を以って語られて非常に興味深く、また面白いながらも考えさせられる点の多いものだった。

 1つはヨーロッパのスーパーマーケットの例。ヨーロッパの主要都市では、スーパーは日曜日には営業しないとのこと。従業員がそれぞれの生活を大切にしているためだそうだ。日本ならば、平日より時給を高くすれば労働力は確保できるという前提に立つ。それでも働き手がいないときは休日当番制を敷く。つまり、「労働条件の変更」と「苦痛の平等負担」が日本のやり方だが、あちらではそうではないようだ。「苦痛」を「与件」として捉える前に、それを「排除または軽減」することをまず考える。

 したがって、売り場のセルフレジ化も進んでいるという。果物などは、単価のついた箱から取り出し、お客が自分で“量り買い”するのだ。お客にとっても、その方がレジに並ぶより時間の節約になり、従業員も助かる。会社も従業員をもっと生産性の高い仕事へ転換できる。そこには、「働かせる」「賃金を抑制する」という発想の前に、「どんな仕事をさせるか」「いかに生産性を上げるか」という発想が常にある。

 その究極の成果が、もう1つのケースとして紹介されたローコスト・エアラインの活況である。人件費だけが膨らむ余分なサービスはどんどん省く。客室乗務員も高級感を捨てた制服。こうした気軽な環境であるため、従業員は皆低賃金でも楽しそうに働いているという。発券業務は完全オンライン化し、手荷物も標準化、機内は全席自由席で、使用している機材は150人乗りエアバス同型機で統一。

 これを効率よく回すことの結果、曜日や時間帯によっては、ロンドン・ブリュッセル間の航空運賃が片道0.01ポンド、日本円で2円50銭という驚異的な安さになり(ネット検索の結果がスライド表示されたときは、あまりの安さにしばらくはピンとこなかった)、往復しても実質として空港使用料2回分の1万円しかかからない。このため、競合する交通機関であるドーバー海峡を渡るユーロトレインは、今がら空きだそうだ。

 「人」を「人」として活かすということは、働く人の自発性と満足感を確保することである。そのためには、「人」に限りない能率や生産性を要求するのではなく、能率や生産性の高い仕事を創り上げていくのが本筋なのだ。顧客満足(CS)と従業員満足(ES)、それに加えて素材満足(MS)、これらをバランスよく充実させていくことが、今後は、国や企業規模を問わずグローバルな経営労務の指標となっていくだろう。

 私はともすれば、人事・労務コンサルという立場で経営者に関与する際に、こうした視座を相手と共有しようという意識が低かったかもしれない。まずビジネスがあって労務があるのであり、労務があってビジネスがあるのではないという平野先生の結語には、大いに頷かされるとともに、身に滲みるものがあった。

写真はいずれも平野先生が撮影し、今回の講演会で紹介されたものです。